経営再建中のシャープが14年ぶりに人事制度を見直すと報道されました。
高橋社長は「楽観すべき状況にはないが、従業員に挑戦をいとわない心を持ってほしい」
「社員がリスクをとれるような加点制度にしたい」と話しています。
新制度は4月から管理職で導入し、秋には一般社員にも広げるとのことですが、人事制度の刷新で従業員のやる気を引き出し、新商品の開発を加速させることが狙いです。
これまで、「減点主義」になる傾向が見られたというシャープ。
「失敗しないように」という気持ちからは新しいものは生まれないという考えは大いに賛同できるところです。
加点式の人事制度は、今後、他のメーカーでも導入する企業が増えていく可能性があります。
シャープの場合、「従業員のやる気を引き出し」とありますが、その際、仕組みの面で次の3つを考慮することが重要です。
一つ目はその加点がどこに向かっているものかということを本人と共有すること。
加点もいずれはマンネリ化します。
継続的に“やる気”を引き出していくためには、その加点がどこに向かっているのかを見定める必要があります。
部署の目標に寄与していることなのか、本人の将来キャリアにつながっていることなのか、それを認められることによって、より自発的な貢献意欲も湧いてきます。
二つ目はその加点による“やる気”をさらなる成長、行動につなげること。
加点主義を「要は褒めろってことでしょ?」と短絡的に捉える方もいますが、加点主義はあくまでも風土作りの一環です。
「加点されて嬉しい!」だけでは意味がありません。
運用者(=管理職)はその先の行動を見据えことが大切です。
「加点される=見てくれている」という重要感・安心感・効力感を生み出し、改善点にも前向きに向き合えるような仕組みや運用が必要です。
最後に加点に値する内容を組織に伝播させていくことです。
加点されるべき行動が繰り返されることは素晴らしいことですが、本人だけにとどまってしまってはもったいないことです。
なぜその成果が生まれたのか、その背景となる行動を明らかにし、他の人も見習うべきことであれば組織のナレッジとしていくことも加点式を導入する1つの意義です。
■ 最も重要なのは管理職のメガネを変えること
また、人事制度を刷新する際に最も重要なことは、仕組みではなく運用の面なのです。
シャープの場合、「これまで、「減点主義」になる傾向が見られた」というのは、人事制度自体ではなく、運用(評価、フィードバック、目標設定etc)が減点思考になっていたと言えるでしょう。
いくら人事制度が加点式になったとしても、運用する管理職が減点的な目線で評価してしまっては、これまでと何ら変わりはないでしょう。
さらにそのような傾向は評価の場面に限らないことも想定できます。
日常での部下とのコミュニケーションや事業判断、他部署との関わり方など。
“社員がリスクをとれるような加点制度”を実現するためには、リスクを取らせるマネジメントが不可欠になってきます。
できたことを「成果」と見るか「当然」と見るか。
うまくいかなかったことを「失敗」と見るか「次へのステップ」とみるか。
マネジメント手法を抜本的に変えるのではなく、管理職の見るメガネを変えることが重要です。
人事制度を改訂する際に、「何に対して加点するのか」「どの成果は何点の加点になるのか」といった設計の詳細で悩む場合があります。
不要な議論とは言いませんが、あまり詳細に作りこみ過ぎると、会社の定めた加点項目ばかりを追いかける社員を作ることにもなりかねません。
「新商品の開発には社員の取り組み姿勢が重要」と考えるシャープですが、それでもなお、仕組みに頼りすぎていないかが、経営再建の鍵と言えるかもしれません。