中国の仏教書であり禅宗の語録。
『碧巌録』に出てくる言葉で、「啐啄同時(そったくどうじ)」というものがあります。
ヒナ鳥が殻を破ってまさに生まれ出ようとする時、卵の殻を内側から雛がコツコツとつつくことを「啐」といいます。
ちょうどその時、親鳥が外から殻をコツコツとつつくのを「啄」と言います。
内側からつつく「卒」と外側からつつく「啄」とによって、殻が破れて中から雛鳥が出てくることができます。
悟りを開くことができるのは、禅僧の師と弟子の呼吸がぴったり合った時だという例えで、今では「絶妙の機を逃さない」という意味で使われます。
本来の意図とは異なりますが、「内側と外側から同時に」というのは組織変革でも大事なアプローチだと思います。
組織を変えたいと思うとき、外部人員の登用・アドバイスはとても重要です。
客観的に組織をとらえてくれることや、組織にないノウハウをもたらしてくれるためです。
しかし、外部人員にばかり頼りすぎるとうまくいきません。
言うまでもなく、内部側からの反発があるためです。
新しい見識を持って改革を進めようとすることに、抵抗感を持つ人が多いことは想像しやすいことでしょう。
「うちのことを何もわかっていない」「うちは特殊だから」という言葉とともに。
だからと言って、内部人員だけで組織を変えようとしても、その変革は遅々としてうまく進まないでしょう。
今までの常識にとらわれすぎてしまっているためです。
ここで大事なのが、「内側と外側から同時に」という視点です。
「内と外の力を両方活用して」と言った方が、イメージしやすいでしょうか。
先述した通り、外部からの客観的な意見、新しいノウハウは重要です。
そして、それをうまく組織内に浸透・活用していくためには、やはり内部側の人材で良いスポークスマンになってくれる人が、絶対的に必要です。
改革には、内と外の両方の改革者が必要ということなのですが、内・外の境は状況により異なります。
例えば会社の場合、単に「内=社内、外=社外」というわけではありません。
社長が社員の意識を変えたいと思った時、社員からすると、社長は外の人なんですね。
そこに外部コンサルを登用しても、社長とコンサルタントは同種ととらえられます。
この状態で何かを仕掛けても、「嵐が過ぎるのを待つ」状態で終わるでしょう。
つまり、組織変革で大事なのは、変革したい組織の中で変革者を育むこと。
一気に組織全体を変えるのではなく、その組織の中でキーマンを作るということです。
研修でも良いかもしれません。
社外の人との定期的な接点を作ることも大事でしょう。
時には社長・上司側からの根回しのような1対1の指導が良いかもしれません。
まずは、変えたい組織の内部にキーマンを作ること。
そして、外と内からの両方のアプローチで変革の流れを作ること。
ただし、スピード感は大事ですが、決して焦らないこと。
まさに、「啐啄同時」が本来意味するところの「絶妙の機を逃さない」「「絶妙の機を待つ」ことが大切です。