「その思い込みを捨てろ、その思いつきを拾え」
日本のヒップホップグループ、ケツメイシの『叫び』という曲の一節だ。(『ケツノポリス7収録』)
唐突だが、こんな投げ掛けをしてくれるマネージャーが、開発部門に一人でもいたら、その企業の先は明るいものだろう。
他社との優位性を保ち、新たな収益源を得るために、各企業にイノベーションが求められていることは言うまでもない。
そしてその声は、経営者から開発、研究部門のトップ、各マネージャーに伝わっていく。
もちろん各マネージャーは、部下に新しい発想を求め、「枠にとらわれるな」と鼓舞する。
そして、その一方で「言われたことしかできない」「発想が貧困だ」「提案自体がない」と部下について嘆くこともしばしば。
しかし、ときに部下が「ありえないだろ!」と思えるほどの突拍子のない提案をしてきたとしても、「現実的ではい」「常識的に無理」「根拠が乏しい」と一蹴されてしまうことも多いのではないか。
ここに研究者のジレンマがある。
経営層からも、マネージャーからも「他社が思いつきそうもない事業創造、商品開発」につながる研究が求められると同時に、「開発的にも収益的にも成功が確実視されるもの」でなければ、GOサインが出ないのだ。
失敗リスクを抱えることができない実情もわかるが、それほどまでに確実と言えるような発想は、すでに他で研究が進んでいると考えたほうがいいだろう。
10人中9人が良いと思うようなものでは遅すぎる。
むしろ、9人が反対するアイデアの中にダイヤの原石がある。
そして何より、「ありえない」「現実的でない」と判断したマネージャーの頭の中は、「思い込み」「先入観」といった枠で凝り固まっていることがほとんどであろう。
「ありえない」という判断基準が正しいものとは言い切れない。
現実と思っていたことが既に現実とかけ離れていることが多いのが、時代の流れだろう。
ピーター・ドラッカーは、著書『イノベーションと起業家精神』の中で、イノベーションの機会が7つあると述べている。
その7つの中の中で、2番目に成功し易いイノベーションの機会として、「ギャップの存在」が挙げられている。
さらにそのギャップは4つに区分され、その中に「認識ギャップ」というものがあるという。
「認識ギャップ」とは、ある産業の内部にいる人たちがものごとを見誤り、現実について誤った認識を持っている場合のことだ。
例えば、1989年の生花販売業開始から、成長を続ける青山フラワーマーケット。
その店舗運営を行う、パークコーポレーションの井上社長の目のつけどころは、まさに「認識ギャップ」をついたものである。
元来、個人向けの生花販売を手がける各店舗は、郊外駅前、住宅街に出店していた。
持ち帰りの利便性、出店コストを考えてのことだ。
しかし、青山フラワーマーケットは「持ち運ぶこと自体の楽しさ」に目を付け、かつオシャレな「店の雰囲気」も味わえるのであれば、都市部でもニーズはあると判断。
もちろん、人通りの多さも収益向上の一因となり、現在までの成長がその成功を物語っている。
さらにその根本として、花の主要顧客は、贈呈用や法人需要であったのに対して、「自分自身が楽しむために花を買う」という概念で広めていったことにも注目したい。
人も組織も思い込みによって左右されることは多い。
マーケティングなどの一見客観性を感じるものも、分析者や分析を受ける対象が人間である限り、思い込みによって大きな影響を受ける。
それは、見方を変えれば「経験値」や「先人の知恵」とも言い換えることもでき、確実性の高い選択を示唆してくれるだろう。
しかし、時にそれらは新しいものを生み出す足かせともなり、ダイヤの原石を見落とすことになりかねない。
「その思い込みを捨てろ、その思いつきを拾え」
ケツメイシの歌詞にもあるような、そんな投げ掛けを部下にしてくれる、いや自分自身にしているようなマネージャーが開発部門にいるようであれば、「イノベーション」がお題目になることはないのではないだろうか。
製薬会社の勤務した後、脱サラしてバンドを結成したメンバーがいるケツメイシだからこそ、生まれたと言える歌詞かもしれない。
(歌詞一部抜粋)
やっておいた方がいいなら
とりあえず、おまえやっておけ
明日の100より今日の10
一歩先だけを見ておけ
無駄に思える事柄も
俺にとったら宝の山さ
自分の馬鹿さ加減を認め
そこから見える景色を見ろ
その思い込みを捨てろ、その思い付き拾え
その思い込みを捨てろ、その思い付き拾え
その思い込みを捨てろ、その思い付き拾え
その思い込みを捨てろ、その思い付き拾え
空気読め、空気読めって
空気読んだふり、何も言わずで
今日しか出来ない今日の話は
明日にはあすに話したい奴が
聞かれたこと、仕事のこと
今の日本に言いたいこと
何でも良いから言ってくれ
お前の全てをぶちまけてくれ
黙ってて全てがうまくいく
それだけがお前の成果なら
構ってる暇は俺には無いから
とっととこの場を去ってくれ
場違いな発言も、ただ間違った発言も
意味があるんだ、きっとこの先に
だから黙ってないで今を叫べ
その思い込みを捨てろ、その思い付き拾え
その思い込みを捨てろ、その思い付き拾え
(ケツメイシ『戦え!サラーリーマン』のジャケット)