教育熱心な上司がいる。
しかし、その実態は“押しつけ熱心”となっていることも少なくないのではないか。
「おれが一生懸命手をかけてやっているのに」と熱心に教えていても、なかなか、変化が見られない。
さらにはその熱心さも部下からするとストレス以外の何ものでもない状態になってしまう。
スキルや知識などはある程度までは教えて、身につけることはできるが、いかんともしがたいセンスのようなものはある。
センスというと、大層なものに聞こえるが、性格もその1つであり、そういったものはいかんともしがたいことが多い。
それでもなお、自分の成功パターンを押しつけている上司が少なくないのが実情だ。
ある程度までは引き上げることは可能であろうが、一定以上の成果を残すには本人の素質によるものも多い。
そこを矯正することに固執し、本人のやる気を損ね、組織全体に負のエネルギーをばらまくのならば、いっそのこと、育てることを諦める方が懸命とも言えるだろう。
「育てることを諦める」とは言ってしまうのは、言いすぎかもしれないが、言い方を変えると「割り切る」ということだ。
できないものは、でききない。
その代わりに上司の方にやってほしいことが3つある。
1.うまくいかないのならば、違うことをやらせてみる。
「何をやらせてもダメ」という人材がいないとは言い切れないが、それも上司の先入観である場合が少なくない。
一度まっさらな視点に立って、部下の得意なこと・できていることを考えてみて欲しい。
それを活かすことができるやり方を考えさせてみたり、もしくは本人にあった仕事を任せてみたりすることも一手だろう。
人材育成も大事だが、人材活用の面も忘れてはならない。
2.レッテルを貼る
しかし、人材活用するにあたっても一定水準の能力は必要だというのは、もっともな話だ。
その一定水準にまで引き上げるにあたって、試して欲しいことが「レッテルを貼る」ということだ。
「レッテル」と言うと、通常否定的な意味で用いられることが多いが、部下に対して、ぜひ「プラスのレッテル」を貼って欲しい。
どんな小さなことでもいい。できていること、上手くいっていることに目を向け、それを本人に伝える。
人間とは不思議なもので、苦手な分野も実は単なる思い込みであることが多い。
ある脳科学者によると、脳は安定化したがるという性質があるそうで、「できている」と何度も言い聞かせていると、脳がそう思い込むようになるというのだ。
逆に、「自分は駄目だ」「あいつは駄目だ」と思い、口癖になってしまうと、脳が駄目だと思い込み、その考えで固定化されてしまう。
そうなると、本当はできる可能性があったとしても、能力が発揮されにくい状態になってしまう。
できていないことにまで、「できている」と暗示をかける必要はないが、「昨日より、今日」という観点で、小さな変化に目を向けそれを伝えることで、変化に対して前向きな体質を作りあげていく。
3.自らが変化する
「子供にとっての最大の教育的刺激は何か?」
それは「大人の学ぶ姿勢」だ。
何でもできると思っていた、大人がまだ勉強している。
そんな姿勢が子供が「自分も勉強しよう!」と前向きに思える最大の刺激なのだ。
そして、それは社会人自身の学習にもあてはまる。
仕事ができる先輩や、成果を上げている上司の学ぼうとする姿。
いや、不得手な部分があったとしてもそれを克服しようともがく姿は、部下にとって、最大の刺激なのだ。
冒頭で「押しつけ熱心」と表現したのはこの裏返しで、一見、教育熱心な上司に限って、これまでのやり方に固執していることが多いもの。
もし、部下の育成で悩んでいるのであれば、もう育てることは諦めて、自分自身が変化することを試みてはどうだろうか。