「リーダーが第一に責任を負うのは、自分が率いる組織に対してであり、自分の出世や野心に対してではない。
幹部リーダーは後継者づくりに特に留意すべきである。」
ラリー・R・ドニソーン
(米国陸軍士官学校ウエスト・ポイントの元教官、リーダーシップ教育者)
これからの組織・人事分野の課題は「組織力」という言葉に集約されていくように思います。
現在手がける管理職研修でも、「人を育てる風土」ということをテーマにすることが多く、「組織力」を高めたい期待というご要望が高まっています。
組織力の要は「マネジャー」「リーダー」であり、力を引き出すか、減衰させるかの鍵を握っています。
青山学院大学の講師を勤めている平井孝志氏は、『組織力を高める ~最強の組織をどうつくるか~』という著書において、
「組織力は“4つの減衰”との戦いであり、マネジャーの力量によって完全に左右される」
と書いています。
“4つの減衰”とは、
■情報の減衰
■力の減衰
■フィードバックループの減衰
■顧客の声の減衰
ということなのですが、1つずつ見てきましょう。
■情報の減衰
組織の中で伝言ゲームを繰り返されるともとの情報から、本来伝えられるべき内容が抜け落ちたり、歪められたり、行間のニュアンスが消えてしまったりします。
このような「情報の減衰」が起こることによって、組織がバラバラの方向を向いたり、やるべきことが行われなかったり、部門間の縦割り文化が生まれたり、といったさまざまな問題が発生することになります。
やっかいなことに、一般的に言われる、いわゆる「情報」だけでなく、我々の熱意や価値観、危機感といった「思い」も同じように減衰していくということです。
一般的に起こるのは、社長の思いが取締役やマネジャーを経ることによって大きく「減衰」するということです。
■力の減退
チームの力が発揮されない、「力の減衰」が起こるのには4つの理由があるといいます。
①マネジャーとメンバーの間で「情報の減衰」が起こるやるべきことをメンバーにきちんと伝えず、メンバーに十分必要な情報を理解させていない。
悪い場合には、その仕事をしなければならない理由や背景、意味や全体像について、まったく説明を行っていなかったりする。
その結果、その仕事の本来の目的や重要性、緊急度に関してメンバーが正しく理解できず、求められるアウトプットの水準に達しなかったり、誤った判断をして、的外れな行動をとることになってしまいます。
②マネジャーがメンバーの力を理解していない
人にはそれぞれ得手不得手がある。チームを構成する意味は、各人が持つ強みを活かし、互いに助け合いながら一人でできないことをみんなで達成していくところにあるはずです。
マネジャーがメンバー一人ひとりの力を十分理解しないままでは、メンバーの強みを引き出したり、相乗効果を生み出したりすることは難しいのです。
③マネジャーがメンバーの支援をしない
メンバーに課題をやり遂げるための支援をしない。
OJTという名の放任、放置がまかり通る。マネジャーはチームの力を引き出すためにも、誰が何に困っているのかを察知し、メンバーから求められなくても、必要に応じて手を差し伸べるべきです。
④マネジャーがメンバーのやる気を引き出していないマネジャーはメンバーのやる気を引き出さなければなりません。
一人ひとりの仕事をよく見ていて、適切な心配りを行う必要があるのです。(フィードバックループの減衰参照)
このように「力の減衰」とマネジャーの力量に大きな関連があります。
力のないマネジャーを選んでしまうということは、組織にとって死活問題なのです。
■フィードバックループの減衰
組織の中におけるフォードバックループとは、日々の業務を遂行し、その結果を評価し、さらなる改善につなげていくことに他なりません。
この力が減衰していく最も大きい原因は、マネジャーの評価能力の低さにあります。
信頼関係のない組織では、いかに仕組みを精緻化しても、問題の根本解決になりません。
■顧客の声の減衰
組織が大きくなるにしたがって、細分化が行われて、メンバー全員が顧客と接することが難しくなり、組織内では部門間の調整ばかりに手間がかかるようになります。
その結果、顧客の声が組織内でどんどん減衰することになる。
すなわち組織と顧客の距離はどんどん離れていってしまうことになるのです。
“4つの減衰”と聞くとあまりピンときませんが、中身を見てみると、多くの企業で心当たりのある問題も多いのではないかと思います。
そして、そのどこにおいてもが「マネジャー」「リーダー」が要であるということがわかります。
繰り返しになりますが、自社の組織力を高めることにも取り組んでいくためには「マネジャー」「リーダー」の意識の変換、能力の向上、行動の実践が不可欠となってきます。