日本初の量産型エアバッグを開発した元ホンダの小林三郎氏とタッグを組んで研修を行うことがあります。
ホンダの“挑戦・独創・革新”の文化の中での原体験をもとに、イノベーションを起こす組織・リーダー、そしてものの見方について学んでいきます。
講演で語られる内容は、業界や職種を問わず参考になるものです。
一方で、一緒に付き添っていると、休憩中、食事中、移動中などに講演には出てこない話を聞くこともあります。
例えば、当時既に引退していた4代目社長の川本信彦氏から呼び出された時の話。
ある鰻屋で食事をしながらこう言われたそうです。
「小林、今のホンダには“ものさし”が少なくなった!
昔のホンダには色んなやつがいた。
仕事ができるやつ。
偉いやつ。
揉め事が起きた時の調整が上手いやつ。
夜の宴会で活躍するやつ。
そして、仕事はできないけど、うちに帰ると良いお父さん。
みんなそれぞれ何かしらの場面で輝いていた!
それが今はどうだ?
偉いやつしか、輝けないじゃないか!!」
当時、経営企画部で全社の組織運営がミッションであった小林氏には、ハッとさせられた言葉だったそうです。
本当にその通りだと。
そして、この話を小林氏から聞いた私も「本当にその通りだ」と思いました。
ホンダが、というわけではなく、多くの企業において“ものさし”が少なくなっていると。
グローバル化が進む現在にあって、日本企業もダイバーシティの推進に力を入れるようになりました。
性別、国籍、世代を問わず採用し、さらにはそういったものに囚われずに昇進していく。
しかし、その実態はどうでしょうか。
そもそもダイバーシティとは、「違い」を受け入れ、認め、活かしていくことです。
しかし、結局のところ違う属性、条件の人が集まり、一定の“ものさし”の中で評価されているに過ぎないのではないか。
結果として、多様性を期待されて入社した人も、いつの間にかその組織に染まってしまうと。
これは企業という括りだけでなく、職場という範囲においても見られることでしょう。
上司のやり方、考え方と合わなければ脱落者とみなされてしまう傾向は。
そrが、離職という形につながってしまうことは少なくありません。
社会全体としてみると、人材の流動性が高まり、多様性の幅が広がっているように見えますが、実際は個別の企業において多様性は失われていっているとも言えます。
小林氏がこの話を私に語ってくれた背景には、異質を受け入れることがイノベーションを起こす肝であるということを伝えたかったためです。
だからこそ、複数の“ものさし”が必要であると。
つまり、組織内に多様性のない企業ばかりが増えると、日本からはイノベーションが起こらなくなってしまうことが危惧されているのです。
あなたの会社、職場には、複数の“ものさし”があると感じられるでしょうか?
選択と集中という戦略を取らざるを得ない中小企業なら、まだしも。
大企業においては、この複数の“ものさし”を持てるかどうかが、今後の競争力の源泉になると言えるのではないでしょうか。