敵を倒せば倒すほど、主人公と仲間のレベルが上がるロールプレイングゲーム。
魅力的なストーリーも設計されていて、多くのヒット作が生み出されてきました。
やればやるほど強くなる。
そんな設定に、私も中毒的にのめり込んでしまった時期がありました。
今、アメリカでは、その常識と言える設定を覆すようなロールプレイングゲームが開発されています。
常識を覆す?
それは、進めれば進めるほど、主人公が弱くなっていくロールプレイングゲームです。
その名も「TO ASH」。
主人公は最初から強く、さまざまなスキルを保有している戦士ですが、同時に死期が迫りつつある老齢の人物でもあるそうです。
彼はゲームの進行と共に年を取ってスキルを失い、徐々に”弱体化”していくため、ゲームを進めるためには時間を有効に使ったり、仲間を作ったりする必要があります。
実は、このゲームがテーマとしているのは「死の受容」。
避けることのできない死や喪失をプレイヤーに問いかける内容になっています。
開発しているのは、心療内科で働くセラピストだそうです。
高齢者は、昨日まで自分でできていたことが、できなくなるという経験をしています。
これをゲームとして表現することで、高齢者を経験したことがない現役世代にも、高齢者の戦いを理解してもらおうとしています。
先述の中毒性が期待できないので、どこまで流通するかはわかりませんが、非常に面白い取り組みだと思います。
何ができる、何ができないということ以上に、「何にもどかしさを感じているか」というのは、なかなかわかりづらいものです。
本人もそのもどかしさをコンプレックスに感じているでしょうから、積極的に表に出すことはないでしょうし。
ただ、この「もどかしさ」を知ろうとする姿勢というのは、職場づくり、人間関係づくりを考える上で、とても重要なテーマになると思います。
高齢者対応、女性対応。
一見、仕組みとして整ってきたとしても、「働きたくても、働けない」「やりたいけど、できない」という部分を理解し、解消していくことを考えた仕組みにしないと、形骸化してしまう可能性は高いでしょう。
そして、職場にそのような「もどかしさ」への理解の姿勢が必要であることは言うまでもありません。
(そういった部分の解消が新しいビジネスモデルの種になるかもしれません。)
また、この「もどかしさを理解する」ことは発達障害の方と一緒に働く上でも大切な視点になります。
発達障害という言葉を耳にすることが珍しくなくなり、自覚する人、診断を受ける人も増えてきました。
職場にもそのような傾向の方がいるという話を聞くことも多くなりました。
彼らは、ある分野での秀でた能力がある一方で、どうしょうもなく苦手なことがあります。
「何でできないんだ!」と言われても、本人もその理由が分かっているわけではないため、もどかしさだけが残ります。
このことは発達障害云々に関わらずとも言えるでしょう。
教える、指示を出す側が自分を基準で考えてしまうと、相手のもどかしさも見えなくなってしまいます。
もっと言うと、上司・部下関係だけでなく、同僚・パートナー会社、そして家族関係にも言えることです。
言葉の通じない旅行先などでの、「お困りのことはありますか?」の一言のありがたさ。
日々接している関係や日々やっている仕事を当たり前と思わず、そんな一言が頭に浮かぶことが多様性を受け入れる職場づくりの一歩目だと思います。