最近話題になっている本『経営者になるためのノート』。
ユニクロの柳井正氏が社員教育のために書かれた門外不出のテキスト。
それが書籍化されたものです。
その第一項には、「イノベーションをもたらすために、非常識と思えるほどの目標を掲げよ」という趣旨のことが書かれています。
「高い目標」ではなく、「非常識と思える程の目標」と表現している点が面白いですね。
以下は本書からの抜粋です。
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非常識だと思えるくらいの高い目標を掲げると、それを実現するためには、いろいろなことを変革せざるをえなくなります。
「既存の延長戦の発想ではこの目標は実現できないな」と思い至るようになります。
例えば、ファーストリテイリングは、これまでの歴史を振り返ってみると、思い切ったジャンプが会社に必要だというタイミングでは、現状の約三倍~五倍程度の売上高目標を長期目標として掲げることをしてきました。
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と、あえて「非常識な目標」「高い目標」を設定することで、会社成長のカンフル剤としていることがわかります。
この考え方は、発想法の技術として用いられることもあって、『エクストリーム・ゴール』なんて呼ばれています。
「これまでの延長線上にはないアイデア」を生み出したい時に効果的な発想法です。
例えば、「売り上げ20%増じゃなくて、200%増だとどう考える?」といった具合に。
目標を極端に高い設定に変えると、それまでの枠組みでの発想では立ち行かなくなります。
新しいことを始めないといけないし、これまでやっていたことを辞めないといけないかもしれません。
「人は安定している活動をしている時は、既存の延長線上で発想する」
「危機感は、壁を越えさせる創造力を促す」
という、組織における創造性に関する2つの特性を踏まえたものです。
「大きな制限」「極端に高い目標」というテーマを設定することで、危機と同じ状況を仮想的に作り、既存の延長線上ではない発想を引き出すわけです。
目標管理制度にも同じような狙いが見られます。
期初の目標設定の際に、「高い目標を設定させられるが、到底達成できそうにない。これでは意欲もわかない」というメンバー層の声を聞きます。
たしかに、そういう苦しい運用になっている企業もあると思います。
管理職も「とりあえず高い目標を掲げておいて、7割行けばOK」「社長が言うから仕方ない」とあまり意図がなく、高い目標を設定させてしまっているようです。
しかし、一方で「到底達成できそうにない」と考える本人の頭の中には、「従来のやり方では」という“隠れた前提”“固定概念”があることも想像できます。
上の立場になるほど、大きな視点で物事を捉えているので、細かいやり方はこだわりません。
むしろ、現状維持の仕事を続けられる方が困ってしまう。
だからこそ、柳井氏のように、あえて「非常識な目標」「高い目標」を設定させるのです。
組織は、変化を抑えようとする慣性が大きく働く。
それは、所属する個人の考え方にも影響する。
社員に変化がないと感じられるとき、それは会社として従来の延長線上を辿るだけの経営になっていることも考えられます。
毎年、同じような目標設定になっていないでしょうか。
毎年、同じような標語を掲げてはいないでしょうか。
「非常識な目標」「高い目標」をうまく活用することで、組織にも、個人にも変化を期待している事を伝えることができます。
しかし、留意したいことは、「非常識な目標」「高い目標」は乱発すると、社員の不満の種にもなってしまうということです。
「高い目標」が当たり前となってしまうと、その目的は見失われてしまいます。
「思い切ったジャンプが会社に必要だというタイミングでは」と但し書きがあったように、ユニクロでも「非常識な目標」「高い目標」は常態的なものではありませんでした。
経営者、管理職の方としてはタイミングが重要とも言えるでしょう。
そしてもう一つ。
「非常識な目標」「高い目標」をうまく活用するためには、経営者、管理職の方は、支援の姿勢が不可欠ですよ。
「高い目標」を掲げて、あとは達成度を評価するだけ。
という姿勢では、社員は前向きに取り組めるわけがありません。
「高い目標」をどう乗り越えるかを、一緒に考え、一緒に取り組む姿勢を見せること。
そして、その達成のために「既存の延長線上ではない発想」が出てきた場合は、理解する姿勢を見せること、自分も既存の考えに囚われないことが大切なんです。