あと2ヶ月ほどすると、新卒の新人が配属されてくる、期待と不安の入り混じる時期。
OJTに力を入れている企業では、「OJT担当者研修」「メンター研修」なるものが実施される時期でしょう。
経験を通じた学びに勝るものはありません。
そうなると、上司・先輩社員が「いかに任せられるか」という力量が問題になります。
見本を見せる、フィードバックするというのも大事なことですし、技術がいることなのですが、この「任せる」というのが本当に難しい。
「ちょっとやらせてみる」というのと「任せる」というのは全然違います。
任せることによる学びも大きければ、リスクの大きさも考えてしまいます。
本人の事を思うからこそ、会社の事を思うからこそ、そして自分の仕事を思うからこそ、考えてしまうことです。
ただ、任せ上手な人がいれば、任せ下手な人もいる。
その違いは、どこにあるのか?
それは次の3つに、はっきりと表れます。
● 計画的に任せているか
● フォローのイメージを持っているか
● 主役になろうとしていないか
● 計画的に任せているか
釈迦に説法ですが、OJTの基本は「意図的」「計画的」「継続的」に教えることです。
任せる上でも、「計画的」というのはキーワードになります。
そうは言っても、新人の育つペースに合わせて、仕事が湧いてくるなんてことはないもの。
結局のところ、「この業務だったら、できるかな」と今の本人のレベルを見て、仕事を与えていることがほとんどです。
“今の本人のレベルを見て、仕事を与えている”
え?まずくないじゃん!?
はい、一見そう感じます。
でも、こういう場合は、「学びがあるか」ではなく、「できるか」を考えいているだけです。
そうなると、だいたい同じような仕事を振っていて、作業者を育てることになってしまうのです。
任せ上手な人っていうのは、「計画的になんて無理」と思わず、
「いつまでに、こういうスキルを身につけてほしいから、このタイミングで、こういう経験をさせよう」
と必ず考えています。
そうすると目線が変わってくるんですね。
できる仕事を探すのではなく、学べる仕事に目を向けるようになります。
「次はこういう経験をして欲しい」と考えていると、仕事で得られる学びに目が行くようになります。
不思議なもので、そういうアンテナを持つと、本当にそういう仕事が出てくるんですよね。
例え、作業的な業務であっても、意味づけがしっかりしているので、動機付け、フィードバックが成長に直結します。
任せ下手な人は、渡せる作業を探し、
任せ上手な人は、得られる学びを考える。
● フォローのイメージを持っているか
学びに着目すると、「できないかもしれない」仕事を任せることもあります。
「任せて、失敗したらどうしよう」
こう思うのが普通でしょうが、それこそ任せ下手な人の発想です。
任せるのであれば「多分失敗するだろう」と思ってください。
「任せて、失敗したらどうしよう」という考えの裏には、「成功するかもしれない」という期待もあるのです。
結果的にフォローを怠ってしまうことがあります。
また、「失敗したら」と考えるということは、リスクが見えているようで見えていないときの発言です。
部下・後輩の成功を期待することは重要ですが、教える側が本人以上に慢心せず、失敗しないためのフォローをする。
どんな理由で、どのタイミングで失敗するのかを想定し、致命傷になる前にアドバイスを送ります。
一方で、失敗も経験のうち。
そして、失敗も計算のうち。
失敗した時に次に繋げるフォローまで考えているのが、任せ上手な人の頭の中です。
任せ下手な人は、失敗して「何やってんだよ!」と言い、
任せ上手な人は、「何をやろうとしているか」を見る。
● 主役になろうとしていないか
反対に、任せた仕事で部下・後輩が成功したとき。
こういう時に任せ下手な人は、自分が前に出てしまいます。
「実は自分が裏で支えてやってたんだ」
もうこれ言っちゃったら、アウトです!
どれだけフォローしていたとしても。
仕事を任せることがなぜ育成上重要なのかというと、「任された」という責任感と、「自分でできた」という達成感を味わえるためです。
この2つの感情は次のチャレンジを生む膨大なエネルギーとなります。
それなのに、「実は自分が裏で支えてやってたんだ」なんて言われてしまうと、責任感も達成感も半減です。
もちろん、信頼している先輩に言われたなら、「これからもご指導ご鞭撻のほど…」なんていう素直な新人もいるでしょう。
でも、そんなこと言わなくていいんです。
そんなこと言わなくても、本人が一番気づいていることなんですから。
さらに、控えたいのは「俺だったらもっとうまくやった」という粗探しだけのフィードバック。
これは、残念です。
いや、本人に伸びてもらいたいからこそのフィードバックというのはわかります。
でも、「俺だったら」なんて経験のある先輩と新人が比べられても、お手上げ状態です。
課題点を伝えることも大事ですが、まず本人の感触を聞くこと。
そして、うまくいっている点についても、目を向けることが大切です。
伸びる新人の上司・先輩っていうのは、その人も素直で成長意欲が高い場合が多いです。
だから、新人のうまくいっていること、というか自分とは違うアウトプットややり方に目を向けるんですね。
それでどうするかというと、自分のものにしちゃう。
「お前、面白いやり方するな」「今までとフォーマット違うけど、この方が見易いかもな」
という感じで、自分の糧になるならどんどん吸収しようとします。
「自分のやり方、会社のこれまでが全て正しい」と先入観を持たずに。
そういう姿勢が、また新人の成長意欲を駆り立てるんですよね。
任せ下手な人は、自分との違いを「粗」と考え、
任せ上手な人は、自分との違いから学ぼうとする。
とOJT担当者になる方は、この3つの観点で自分を振り返ることをお勧めします。
そして、OJT担当者にとって、最後の「違い」に目を向けることは、別の観点でも重要です。
OJT担当者制度を用いる企業で、たまに見かける勘違いが、OJT=1対1の教育制度と思ってしまっていることです。
窓口的な立場や、仕事を振るのがOJT担当者であったとしても、職場の先輩・上司全てが育成者であることは変わりません。
このことを、OJT担当者本人が忘れてしまい、一人で育成責任を負ってしまっていることがあります。
自分だけで抱え込まない。
それには、自分と周囲との違いに目を向けてみると良いでしょう。
「この分野ではあの人のことを見習って欲しい」という目線に変わります。
そして、最後にもう一つだけ。
自分が教わったやり方とは“違う”やり方で教えてもいい。
これが、OJTを進化させる極意です。