「ライバルではなく、自分自身との闘い」
スポーツの世界を中心に、こんな言葉を聞いたことがあると思います。
「自分の甘さこそが最大の敵」という意味であり、翻ると「自分自身に勝つことが一番難しい」ということです。
このときの自分とは「個人」を指していますが、「組織」にも当てはまるのだと、ある本の一節で気づきました。
『キリンビール高知支店の奇跡』。
元キリンビール副社長である田村潤氏の実体験で、高知支店を中心としたV字回復の回顧録です。
「この闘いの本質はライバルとの闘いというよりも、自社の風土との闘いといえる」
この本の中で何度か出てくる言葉です。
「自社の風土との闘い」。
会社に勤める人であれば、誰しもがズキンッとくる言葉ではないでしょうか。
役職や職種に関係なく。
事業運営を下支えし、帰属意識を高めるものでもあるはずの企業風土。
それがいつの間にか“闘う相手”と感じるものになってしまっていた。
いや、もしかしたら初めから。
プロセス重視と言いながら、売り上げしか評価されない。
顧客第一を標榜しているのに、会議や資料作成など社内向け業務が重視される。
新規事業やイノベーションが求められているのに、減点主義になっている。
そういったことが、多くの企業で起こっています。
企業風土は社員の言動に多大なる影響を与えます。
結果として、生み出されるサービスや製品にも、そして業績にも。
事業戦略を実現するためには、人材戦略だけでなく、企業風土も戦略的に醸成していく必要があります。
そういった認識は周知のものであり、風土への注目は年々高まっています。
しかし、風土を意図的に生み出そうとする取り組みを続けている企業は多くはありません。
優先順位がどんどん下げられていくんですね。
正解はないものですし、短期的には成果が目に見えないためです。
それでも、勘違いしてはいけないのは、企業風土は自然にでき上がるものではないということです。
むしろ、求めるものと真逆の風土ができ上がっていたという方が多いかもしれません。
特に、今の時代には。
新卒採用が人材確保の中心でなくなった。
合併や買収が珍しいものではなくなった。
商圏が広がり顧客との距離が離れた。
創業社長が少なくなった。
仕組みによってビジネスが回るようになった。
色々な変化はありますが、特に影響があるのが、「多様性の受け入れ」です。
多様性を受け入れることは、一つの文化ですし、それ自体重要なことではあります。
採用難で、結果的に多様になった企業もあるでしょう。
また、それらは学校教育の変化から来るものでもあります。
と、それらの背景は置いておいて、ここで伝えたいこと。
それは、様々な多様性を受け入れるということは、組織として意図する文化が自然に生まれにくいということです。
一旦、個人に話を戻してみます。
「自分自身との戦い」とは唯一無二の自分との戦いではなく、自己の二面性との闘いです。
理性と本能、厳しさと甘さ、天使と悪魔といったもの。
もしかしたら、映画『インサイド・ヘッド』や『脳内ポイズンベリー』のように、頭の中ではもっとたくさんの自分同士が葛藤しているかもしれません。
組織になるとそれが顕著です。
多くの個性が存在するのですから。
風土は、事業運営を下支えし、帰属意識を高めるものでもあり、ときに規範となるものです。
規範は、時に、煩わしいものにもなります。
一人ひとりの個性は、その煩わしさに耐えられなくなり、その数が大きくなったとしたら。
楽な方へ、楽な方へと進んでいき、そこで生まれるのが、“闘う相手”になってしまう企業風土です。
思考停止の風土。
他責の風土。
やりっぱなしの風土。
我関せずの風土。
などなど
多様性の受け入れは、重要です。
良い悪いではなく、受け入れなければ環境から取り残されるという企業もあるでしょう。
だからこそ、自然任せにすると、“闘う相手”になりかねない企業風土は、戦略的に醸成していく必要があります。
事業戦略を実現するために、どういう風土が必要か。
そのために、、、
日々のマネジメントでどういう質問を上司が投げかけるか?
経営層はどういう存在として何を発信するか?
日々の取り組みで何を評価するか?
職場の共通言語は何か?
そういった、初めはわざとらしくも感じる取り組みが、時を重ねて文化をつくり、やがて組織に根付き風土となっていきます。